暗号資産の「追跡」は自分でもできます
公開情報だから誰でも見れる
暗号資産(仮想通貨)は「ブロックチェーン」という仕組みで管理されており、すべての取引記録が誰でも閲覧できる状態で公開されています。つまり、ウォレットアドレス(送金先)さえわかれば、自分でも資金の流れを確認できます。
例えばビットコインなら「Blockchain.com」、イーサリアムなら「Etherscan.io」といった無料の閲覧サイトが有名です。送金した際のウォレットアドレスをコピーして検索窓に貼り付けるだけで、どこからどこへ送金されたか、いくら動いているかがすぐに確認できます。
レポートを読み解けないと危険
被害者の方は、「とにかくお金が返ってくる可能性があるなら」「自分で追跡なんて知識もないのにできない」という理由もあって、調査会社に依頼するケースもありますよね。
調査会社からレポートが納品されても、「知識がないからわからない」では、何のために調査依頼したのかわからなくなってしまいます。レポートには、あなたの送金した資金が、どこからとこへ移動し、マネーロンダリングされて、最終的にどこにたどり着いたかが記載されているはずです。
その仕組みが理解できず、自力追跡はあきらめて調査会社に依頼したとしても、レポートには結果が書いてあるのですから、ツールを使って正しいのかどうかを確認してみてほしいと思います。
ほかでも書いていますが、調査会社の手技・実力・経験値・使用ツールによってはミスもあります。高い調査費用を支払って、間違っていましたでは許されませんが、そういう意味でも確認は必要です。
警察にも説明しやすくなる
「被害届を出しても相手にされなかった」という声もありますが、資金がどこに送られたのか、自分で追跡して説明できると状況は変わります。
例えば、送金先のウォレットが特定の詐欺集団によく使われているアドレスだった、あるいは直後に海外取引所へ移動している、といった証拠は警察の判断材料になります。
「そもそも詐欺なのか?」という理由で警察から被害届を受理してもらえない場合は、「詐欺サイトのデポジットアドレスから自分の操作ではなく資金が別のアドレスへ送金されている」ここまでの追跡結果を示すだけで詐欺と証明できます。
警察は金融機関とは連携できますが、暗号資産の仕組みに明るいとは限りません。「このウォレットは海外の無登録取引所に流れています」「このアドレスは詐欺被害の投稿でも多数報告されています」と説明できれば、真剣に話を聞いてもらえる可能性が高まります。
自分で調べたい方へ
まず、取引明細(履歴)からウォレットアドレスを特定します。あなたが一番初めに暗号資産を購入し、送金をしたCEXの取引履歴を確認してください。TxIDや送金先アドレスが記載されています。
- ビットコイン → Blockchain.com
- イーサリアム・USDT(ERC20) → Etherscan.io
- TRC20(Tron系USDT) → Tronscan.org
- BNB・BEP20(バイナンス系) → BscScan.com
これらのサイトは無料で使えます。送った金額・日付・TxIDが一致していればそれがあなたの送金した履歴で間違いないです。さらに、そこから資金がどう流れているか確認できます。
補足:調査会社は不要?
調査会社でも、上記の無料サイトを使った内容をレポート化している場合があります。高額な費用を払っても、「追跡はしたが返金可能性は低い」「相手の特定は困難」という結論になることも珍しくありません。多くの調査会社では、一次調査無料・返金の可能性を調べ、可能性があれば依頼を受けるという形式をとっているようです。
まずは自分で追跡し、必要なら信頼できる専門家に相談しましょう。例えば、追跡途中で見失うことがあります。他の被害者と合算されて送金された場合や、スワップ・ブリッジなどにより暗号資産の種類が変わることもあります。そういった仕組みを知らないと追跡は難しいものになります。
暗号資産の仕組み解説
例えば、金や株を買うような感覚で暗号資産を始めた場合:
- 国内取引所(例:コインチェック)で口座を開設する
- 日本円を入金し、ETH(イーサリアム)などを購入
- 値上がりしたら、売却して日本円に戻す
- 銀行口座に出金
この流れでは、暗号資産は「国内取引所の自分の口座内で管理」され、送金は不要です。自分のウォレットもありません。CEX内で共通のウォレットアドレスに属し、その中で「誰のお金か」は内部ID(UID)で管理されているためあなた個人のオンチェーンウォレットは存在しないのです。
詐欺の送金は何が違うのか?
詐欺では、この「普通の流れ」が崩れます。
- コインチェック等でETHを買ったのは同じ
- しかし「もっと儲かる投資がある」と言われ、取引所の外の「ウォレットアドレス」に送金させられた
- そのウォレットの先は詐欺グループの管理下
本来「送金」なんてよっぽどしない。CEX内で売り買いする場合、送金はしません。
詐欺グループは何を模倣していたのか?
詐欺グループは、あたかも本物の投資家になったかのように錯覚させる「仕掛け」を作っていました。具体的には:
- 資産が増えているように見せる偽サイト
取引記録・資産推移・利益履歴など、実際には存在しない数字を画面上に表示。 - 著名取引所のロゴ・色・UIの模倣
Binance・OKX・Bybitなど有名CEXのロゴやデザインをパクリ。場合によっては本物取引所のドメインに似たURLで偽装。 - ブロックチェーン技術風の演出
「ブロックチェーンに接続中」「短期取引完了」「資産ロック解除」などの本物っぽい用語を画面上で流す。
秘密鍵を知らない=本当の資産管理じゃない
本来、暗号資産は「自分が秘密鍵(シークレットキー)を持つことで完全に自分の資産」です。詐欺サイトで取引をするために暗号資産を送金した。送金先のデポジットウォレットと自分の個人ウォレットを紐づける演出があった。でも、あなたが秘密鍵を持っていない時点で資産ではありません。
ただの偽サイトの画面上の数字です。たとえばMetamask(メタマスク)は自分のウォレットであり、秘密鍵もシードフレーズも自分が管理します。詐欺は「取引サイト内での資産管理」を装うだけ。「Metamaskは使わず、偽の取引画面だけで資産があるように見せる」のが特徴です。
実在する短期取引風の仕掛け
- 「高頻度トレード」「AI取引」
- 「短期投資」「ステーキング」
- 「NFT収益」など
これらは実在する投資手法を模倣し、被害者が「合法的で新しい稼ぎ方」と誤認するよう仕掛けられています。
実は仮想売買の数字操作だけです。ちょっとだけ暗号資産取引の知識がある人にも「これ新しい取引手法なの?」と思わせる設計がされています。
本物の用語+ありそうな画面=完全偽物という組み合わせです。
追跡に必要な基礎知識(こだけ押さえる)
- CEX(Centralized Exchange)
中央集権型の取引所(コインチェック・ビットフライヤー(国内)、バイナンス(海外)) - DEX(Decentralized Exchange)
分散型の取引所(Uniswapなど、サイト登録不要の取引) - ウォレット
暗号資産の財布。CEX内のウォレットもあれば、Metamask等の外部ウォレットもある - ブロックチェーンスキャナー
誰でも取引履歴が見られるサイト(Etherscan、BscScanなど) - 送金(Transfer)
自分のウォレットから別のウォレットに暗号資産を送ること - スワップ(Swap)
暗号資産を別の銘柄に交換すること。送金とは別物 - 詐欺用語例:「税金」「保証金」「検証資金」
すべて出金できない理由を作るための口実。存在しない支払い - 最終ウォレット
詐欺グループは、奪った資産を転送し続けますが、最終的には現金化するために中央集権型取引所(CEX)に着地する必要があります。(正規ルートであればです)
つまり、最終ウォレット=「換金された可能性が高い場所」。このウォレットと取引所名が追跡の重要なゴールです。 - 正規取引所(CEX)との関係
本物の暗号資産は、CEXから購入・売却して日本円化します。
偽サイトには換金機能は存在せず、取引所とも接続していないため、数字だけ増えて引き出し不可になります。
「最終ウォレット」まで追うのが目的
どのブロックチェーンスキャナーを使っても、基本は同じです。
自分が送金した先のウォレット(詐欺師の受取先)から、資金がどこに移動したのかを追う という作業です。
資金は何回も送金・分散・集約を繰り返しますが、最終的には詐欺グループが中央集権型取引所(CEX)のウォレットに送金し、現金化するというのが正規の流れです。CEXは銀行口座と接続でき、初めて「現金として引き出すこと」ができます。
ずっとMetamask(メタマスク)等の秘匿性の高い個人のウォレットを経由していたけど、CEXのデポジットウォレットに送金されたところまで追跡出来たらそれが最終ウォレットという認識になります。Metamask(メタマスク)等のウォレットでは「仮想通貨を持つだけ」「別の仮想通貨と交換するだけ」はできますが、法定通貨(円やドル)への現金化は不可能なためです。また、CEXのウォレットまで追跡出来た場合、UID管理されているためその後の追跡が出来ないというのも最終ウォレットと呼ばれる理由です。CEXに開示請求するしかありません。
追跡調査で本当に意味があるのは、
「詐欺グループのお金が、どの取引所に着地したか」を確認することです。
- CEXまで追跡できれば、開示請求・被害届の材料になる可能性があります。
- 最終ウォレットが国内取引所なら、開示請求は現実的に可能です。
- 海外CEXの場合、協力的な取引所なら対応してもらえることもあります。
最終ウォレットが海外の場合
海外のCEX(取引所)は、基本的に被害者からの情報開示請求には応じません。
特に無登録業者・小規模な海外取引所は協力ゼロです。
(Binance(バイナンス)は比較的協力的という報告もありますが、必ずしも確実ではありません。)
最終ウォレットが国内の場合
国内の登録済み暗号資産交換業者(例:ビットフライヤー、コインチェック等)であれば、
・弁護士を通じた開示請求が可能です。
・ 詐欺師が「外国人っぽいキャラクター」を装っていても、実際には日本人が管理していた事例もあります。(だからこそ追跡が必要。相手が片言の日本語で、外国人を装っていたとしても日本人がやっている可能性もあるから)
まとめ
追跡の現実的な目標は、「詐欺師が最終的に使った取引所(CEX)とウォレットアドレスを特定すること」です。
そこが現金化地点であり、法的手続きでのアプローチも「そこ」が起点になります。