あんこさんのLINE履歴から、「どのように送金」し、「どこで騙された」のかが見えてきました。
暗号資産の事が全く分からない被害者は「へー。そういうものなの?」で騙されてしまいます。
もし詐欺師から暗号資産取引に誘われた場合、この記事を読んで仕組みが理解できれば「これはおかしいぞ」と気づくことが出来るかもしれません。そんな思いで紹介します。

あんこさん。お金は休ませていても増えません。
特に日本は今金利が低いですよね?
富裕層は税金回避の特別な方法を知っています。
暗号資産取引をDEXで行えば、追跡することはほぼ不可能。
海外の取引所で資産を増やせば国に税金を取られることもありません。あんこさんの未来のためにも、今金融の勉強をすることをお勧めします。私は暗号資産取引を掌握しています。私の指示通りにやればすぐ増えますよ。やってみますか?



そこまで言うなら。勉強してみようかな。



実際に取引してみるのが一番勉強になります。まずは少額でやってみましょう。15万円で始めましょう。Coincheck、imTokenこの二つのアプリをダウンロードして、本人確認まで終わらせてください。そのあとは私がわかりやすく説明しますから。



税金・日本の金利は低い・お金に働いてもらう・富裕層はみんなやっているなどよく使われるフレーズです。将来に不安がある人や税金に不満がある人も騙されやすいでしょうね。
「DEXであれば追跡不可能」発言がありますが、これは嘘です。DEX(分散型取引所)は確かに口座開設や本人確認が不要なものもあります。しかし、ブロックチェーン上の取引は全て公開され、取引履歴は永久に記録されます。「追跡できないから国税庁にばれることもなく税金を納めなくて済む」これは海外の取引所を装った詐欺サイトを使わせるための誘い文句です。



今思うと、暗号資産のこと何も知らなかった私に、“DEXで税金も追跡も心配ない”って…あれ全部嘘だったんですね。



はい、典型的な詐欺話法です。でもこの記事を読んだ人は、そこで止まれます。
あんこさんはTonyに言われた通り、Coincheckに15万円入れ、imTokenの認証を済ませました。次はimTokenがどのように悪用されたかを説明します。
imTokenのDAppブラウザを悪用した手口



ETHの購入が済んだんですね。では次は自分のウォレットを作りましょう。私はimTokenというアプリを使っています。



はい、ダウンロードしてウォレット作りました!Ethereum選んで、自分のアドレスが表示されたよ。これで自分の資産管理ができるんだね?




Tonyはシンガポール在住という設定なので、imTokenもなじみがあるのかな?なんて思ってしまいます(imTokenはシンガポールの会社)。あんこさんはimTokenでETHのウォレットを作りました。ウォレットのアドレスは0x4f0D8bbB…D1059faCCです。(これは本物で、イーサスキャンでトレースできるものです)



ここ大事なポイントです。あんこさんは確かに“自分のウォレット”は作っています。でも秘密鍵の設定をしていなかった。しなくても使えますが通常は資産管理のため秘密鍵を設定し、自分で管理するものです。(自己管理型ウォレット)



次に、このURLをimTokenのブラウザにコピペして開いてください。 hxxps://trubitpra.com/oPRMHdrK



ふむふむ……貼り付けて開いたよ!トラビットプロって書いてある。取引所みたいな画面だね。
あんこさんは、この詐欺サイト(TruBit Proと名乗るサイト)にログインします。その時にimTokenと連携するような画面が出ました。(実際Tonyから赤枠で印を付けたスクショが送られてきたためそれを掲載しています)









ここでも注意!このtrubitpra.comは正規の取引所ではないどころか、詐欺サイト(TruBit Proと名乗るサイト)です。ウォレットの“連携”は一切していません。ただDApp経由で詐欺サイトに入っただけで、資産は簡単に抜かれます。
連携演出がありますが、おそらく仕組みはこうです。
この「Connect」ボタンを押すことで、詐欺サイトはDApp接続を装い、あんこさんのウォレットアドレス情報(例:0x4f0D8bbB…D1059faCC)のみを取得していたと考えられます。これは通常のDApp接続と同じ仕組みを悪用しており、ウォレットアドレスを読み取るだけの簡単な仕組みです。
その後、詐欺サイト上で表示される残高や取引履歴は、詐欺サイト側が自由に作り上げたフェイク画面です。実際の資産管理は一切されておらず、imTokenアプリ内のウォレット残高は常に0円のままでした。
実際、私たちはimTokenの公式サポートにも確認しており、
「この詐欺サイトとの連携は一切存在しない」との公式回答も得ています。
このように、imTokenの「DAppブラウザ機能」が悪用され、見せかけの連携が演出されていたのです。
追記
詐欺サイトの接続画面は本物のimTokenウォレットと通常通り接続できてしまいます。これは「DApp接続」という仕組み自体が、誰でも自由に使えるオープンな仕組みだからです。実際に接続時にはimTokenの接続画面が表示され、アドレスだけ取得されます。
ここで混乱しやすいのが、imTokenの公式サポートが「その詐欺サイトとは一切連携していない」と回答していた点です。これを「接続できたのに連携していないとは矛盾しているのでは?」と感じる方も多いと思います。
ですが、これは矛盾ではありません。imTokenは単なる「ウォレットアプリ」であり、「DAppブラウザ機能」を通じてあらゆるWebサイトを開けてしまいます。その中で、詐欺サイトが正規のDAppのふりをしているだけです。imTokenが「連携していない」というのは、「その詐欺サイトがimToken公式が認めたDAppではない」「詐欺サイトの運営には一切関与していない」という意味です。
つまり、ウォレットと接続できるかどうかと、公式の安全なDAppかどうかは全く別の話です。この違いを知らないと、「DApp接続できたから本物だ」と勘違いしてしまい、被害に遭う原因になります。
デポジットウォレットと仕組み
詐欺サイト(TruBit Proと名乗るサイト)にログインしたあんこさんに、Tonyが指示を出します。



じゃあ、このDepositアドレスにさっき買ったETHを送金してください。ここが取引所の資産口座です。



えっ、自分のウォレットじゃなくてこのアドレスに送るの?まぁTonyが言うなら……コピペしてCoincheckから送金っと。







これが最大の落とし穴です。自分のウォレットに入れて運用すると思いきや、最初の送金から“詐欺グループのウォレット”に直接送っています。その後の取引は“偽画面”でしかありません。
あんこさんのように、暗号資産の事を全く知らない人はスルーしそうですが、この詐欺サイト(TruBit Proと名乗るサイト)はちょっと変わった世界観で運用されています。Tonyは「DEXだから足がつかない」と説明しておきながら、Depositアドレスに送金するように指示しています。通常では考えにくい動きです。
DEXとデポジットウォレットの違い:
- DEX:
- 例:Uniswap、PancakeSwap
- 「デポジット」という概念がそもそも存在しない
- 自分のウォレットから直接Swap(交換)する
- 取引は全て自己管理ウォレット⇔流動性プールで完結
- CEX(中央型取引所):
- 例:Binance、Bybit
- 入金時に「デポジットアドレス」が発行される
- UID等で内部管理
- 「デポジット」はCEX特有の概念
重要ポイント:
Tonyが「分散型」「DEX」を名乗りつつ、「デポジットウォレットに送って」と言った時点で明らかに矛盾しています。
“自己管理”を標榜しながら“デポジット”という中央集権構造を組み合わせている=偽DEX確定です。
あんこさんが当時この仕組みを知っていたら、この時点で詐欺と気が付くことが出来たかもしれません。



詳細は「追跡」記事で書きますが、結論だけ紹介します。あんこさんがこの詐欺サイト(TruBit Proと名乗るサイト)のDepositアドレスに送金した数分後、別アドレスに全額送金されていました。実際資産は奪われているのにこの後に取引演出があります。詐欺の手口で『豚を太らせてから屠殺する』ためのものです。
なお、このDepositアドレスは複数確認されています。



Depositアドレスはログインするたびに変わっていたかもしれない。



多くのCEX(Binance、Bybitなど)は1ユーザー=1デポジットアドレスが基本で、一度発行されたデポジットアドレスは長期間(または永久に)有効です。ログインするたびにデポジットアドレスが変わるのは、通常の取引所ではありえない挙動です。
なお、Coincheckの画面に 「受取人種別:本人への送金」となっていますが、これは単に取引名目でありCoincheck側が「本当に本人のアドレスか」を調べているわけではありません。
「TruBit Proと名乗るサイト」での取引演出について
あんこさんはTonyの指示に従いDepositアドレスにETHを送金しました。本来であればここまでで、詐欺師としては目的を果たしているように思えます。ところが「豚の屠殺詐欺」では、取引で成功したように見せ、さらなる送金を狙う目的でこの後あんこさんのウォレットに資金が増えていく演出をします。



ETHをUSDTに変えましょう。価格の変動リスクを減らしながら、短期取引で稼げます。これは日本の取引所ではできませんからね。



スクショを送れば、操作方法を教えてくれるんですね?自分ではとてもできそうにありません。よろしくお願いします。



ETH/USDTペアで換金みたいなものです。あなたのETHを誰かがUSDTで購入してくれますよ。







なるほど、ぱっと見はCEXみたいですね。分散型のはずなのに資金が「口座」で分かれるんですね。
全く分からない人をターゲットにしているなら十分精巧な出来だと感心します。
数分後、あんこさんの登録したメールアドレスにimToken経由でメールが届きました。取引が完了しましたという内容です。これについてもimToken公式に問い合わせたところ「imTokenからはメールは送りません」と回答を得ています。メールも偽物でした。



USDTを使って短期取引をしましょう。DOGEやXRPの取引をします。私がタイミングを見て指示します。指値やストップロスの設定も私が教えますから、安心してください。



なんのことやらさっぱりわかりませんが、よろしくお願いします。
Tonyは自分の資産口座のスクショを送ってきました。日本円で1億円を超えていました。そして、



コロナ禍で輸出が出来なくなり会社が倒産しかけました。そのピンチを私は暗号資産取引で脱しました。あなたもすぐに豊かな暮らしが送れるようになります。
指値やストップロスの設定、これを自分の知識で読めるため、あんこさんに教えてあげますよと言っていました。指値で売り出しても、そこまで上昇しなかった場合は取り下げることもできる。損は絶対にしない仕組みだと強調していました。あんこさんは全く分からないので、Tonyの指示通りに取引をしていきました。



「絶対に損はしない」は明らかに誇張ですが、短期取引の仕組み自体は、指値やストップロス、注文の取り下げといった“損失回避の手段”があるため、表面上は正しいように見えます。
Tonyの指示に従って初めて行った取引の結果、元金の10%近い利益が出ました。しかも5分もかかりませんでした。
注)あくまでも演出の話で事実とは異なります。実際はあんこさんのウォレットに資産は入っておらず、取引もしていません。
出金の演出
あんこさんのケースでは、「勉強のために、少額で」行った取引について、お金が戻ってきています。これは、被害者に「お金がもどった」を体験させ信用させるための演出です。



取引所に入っている暗号資産は、すぐ現金化できるんですか?



はい。すぐできますよ。しかし、あんこさんは今実際取引をして利益を得たのにやめるというのですか?私の知識は特別なものです。教えて差し上げたというのに。分かりました。あなたは人生のチャンスを棒に振るんですね。引き出し方法を説明します。
Tonyは明らかに不快感を示しながらも引き出す方法をあんこさんに説明しました。













出金演出については作りが雑ですね。突っ込みどころが多すぎます。
1. DEXの設定はどうしたのか?
→ DEX(分散型取引所)では、そもそも「法定通貨(JPY)」での売買は存在しません。CEX(中央集権取引所)のUI(サイトの見た目設計)そのもの。
2.チャットで出金?
→ DEXはスマートコントラクト上の自動処理。チャットで支払いや受け取り先を聞く時点ありえません。これはCEX型の詐欺演出です(確実にDEXとは異なります)。
3.“注文生成されました”とチャット待機の矛盾
→ 普通の取引所でも「注文生成」のあとにチャット指示は存在しない。「チャットで銀行口座情報を渡す」という不自然すぎる導線。
4. サービス手数料“2USDT”の謎
→ DEXで固定手数料は不自然。手数料は通常ガス代(ETH)で自動処理。
5. “48時間以内に通知”は即時決済と矛盾
→ 暗号資産の即時性と48時間の待機は矛盾。



海外取引所なので、日本語翻訳したらこんなもんかと思っていました。違うんですか?



日本語対応している正規取引所(Binance、Bybit、OKXなど)は基本的に翻訳が自然で、誤字脱字はほぼ見かけません。一方、『TruBit Proと名乗るサイト』は機械翻訳で意味不明な日本語も散見され(不自然な言い回し)、一部UIで英語のまま、あるいは項目名が崩れています(例:「取引センター」という名称も、正規なら“トレード”か“マーケット”が一般的)。「金融庁への登録・審査」に耐えられるレベルとは考えにくく、真剣に日本市場を相手にしていない印象を受けます。
実際にお金が戻った
Tonyの指示に従い、詐欺サイト(TruBit Proと名乗るサイト)で出金手続きをしたあんこさん。およそ2時間後、銀行口座に現金が振り込まれていました。



Tony、銀行にお金が振り込まれていました。知らない人の個人名義でしたけどこれはどういうこと?



私たちが行ったのはDEXでのP2P取引です。あんこさんのUSDTを売りに出し、それをノード内の誰かが日本円で購入したのです。購入者が振り込んだため個人名義なんですよ。



DEXのP2P取引で個人名義の振込?DEXなのに銀行送金?ノードが買った?全部設定が破綻してます。
項目 | Tonyの説明 | 実際の仕組み |
---|---|---|
DEXなのに銀行送金 | DEX取引なので誰かが日本円で購入し銀行口座に振込まれた | DEXはウォレット同士の取引。法定通貨の銀行送金は存在しない |
P2P取引の説明 | P2P取引で購入者が個人名義で振込むのは普通 | P2Pでも種類が違う:DEXのP2Pは仮想通貨同士、CEX P2Pは法定通貨取引。銀行送金はCEX P2Pのみ。 |
ノードの存在 | ノード内の誰かが購入した | ノードとはブロックチェーンの接続ポイント。人ではなくサーバーのこと。P2P購入者=ノードは誤り |
振込元の名義 | 個人名義から振込があるのがP2Pの特徴 | CEX P2Pでも振込元名義は必ず事前に知らされる。知らない人から突然振込まれることはない。 |
DEXとCEXの混同 | (DEX P2Pと言いながらCEX P2Pの説明をしている) | DEX P2P=ウォレット間の仮想通貨取引。CEX P2P=法定通貨取引。仕組みが全く別。 |



「ユンヒヨンヒ」さんから振り込みがあったんです。銀行に確認したら「日本の労金からでした」って。本人とも連絡が取れるみたいなんですけど怖くて。



P2Pの説明をもう少しします。それから、ユンヒヨンヒさんと連絡を取るのは危ないと思います。警察に任せませんか?
P2P取引について補足
1.CEX P2P(例:Binance P2P)の仕組み
暗号資産はウォレットでやりとりしますが、P2P取引は法定通貨だけは直接送金になります。
たとえば「USDTを買いたい」と注文した場合、売り手の銀行口座情報(名義付き)が表示されてあなたがその人の口座に振り込みます(相手の名前はわかる)。
取引所は、取引完了まで暗号資産を一時的にロック(エスクロー)してくれるので、支払ってから逃げられることはないという仕組みになっています。
2.ウォレットアドレスはわからない
CEX P2P取引は暗号資産は取引所内ウォレットから移動するので、通常は相手の「個人ウォレットアドレス」は分かりません。相手の銀行名義は見えるけど、ブロックチェーン上のアドレスは不明。
3. 詐欺サイト(TruBit Proと名乗るサイト)とCEX P2Pの違い
今回の詐欺サイトでは、「個人名義で送金させ、個人名義で受け取る」仕組みが演出として使われていました。暗号資産のブロックチェーン上の送金履歴はすべて公開されているため、この仕組みを現実に使うのはいわゆる“逃げ道”が存在しません(身バレします)。
一方、CEX P2P取引(例:Binance P2Pなど)では、確かに個人名義の振込はありますが、事前に相手の名前が明示され、取引所の本人確認(KYC)も完了しているのが基本です。さらに、取引所が取引を仲介し、暗号資産は取引所の管理下でエスクロー保護されています。
このように、『誰から入金されたのか分からない』『取引所を通さず資産管理される』仕組みは、正規のP2P取引とはまったく異なります。
4.DEX P2P取引との違い
分散型取引所(DEX)にもP2P取引は存在しますが、こちらは仮想通貨同士の交換に限定されます。UniswapやPancakeSwapのように、ウォレット接続だけで成立し、法定通貨は一切使用しません。
銀行口座・個人名義は存在せず、完全にブロックチェーン上で完結します。今回の詐欺サイトのような「法定通貨を絡めた振込」はDEXでは起こり得ません。
※「P2P取引」と一言で言っても、法定通貨を使うCEXのP2Pと、仮想通貨だけのDEXのP2Pは全く別物です。
※厳密には、DEXはすべてP2P取引です。ただ、法定通貨を使うCEXのP2P取引と区別するため、ここでは便宜上「DEXのP2P」「CEXのP2P」と表記しています。
P2PとCEXの取引画面(イメージ)を比較してみました











詐欺サイト(TruBit Proと名乗るサイト)の画面って、見た目は③のCEX取引とほとんど同じですね。出金申請とか資産残高とか、完全に取引所っぽい…。



実態は「CEX風の詐欺サイト」。中身はDEXでもCEXでもない第三の偽物です。特に今回は「DEXのP2P取引」と言っていたのに、法定通貨が絡んだり出金申請画面があったり、完全に中央集権型のCEX風画面になっていました。本来DEXのP2Pなら①の画像のようにウォレット接続だけで完結し、銀行送金はありえません。



これを 知っていれば一発で「あれ?」って違和感覚えられたかもしれないです。



この「見た目の違い」を覚えておけば、詐欺に気が付けるかもしれませんね。
大金を送金してしまうまでの経緯
詐欺のニュースが出るたびに心無いコメントを目にします。詐欺で傷ついている被害者に追い打ちをかけるようなコメントを匿名で送ってくる人を本当に軽蔑します。
あんこさんは、この1か月後に大金を送金し詐欺被害者になってしまいました。LINEのやり取りから、あんこさんがどのようにTonyに心理操作されたのかが見て取れますのでご紹介します。
あんこさんは、少額取引で実際に利益を得て、現金も戻ってきました。しかしTonyは、引き出してしまったことに明らかに不快感を示しました。
Tonyはこう言います。



私は暗号資産について学び、この方法でお金持ちになりました。
会社が倒産しかけた時、大学の教授にこの方法を教えてもらい、そこから必死に勉強したんです。
元本がないと利益を出すスピードは遅い。私は家を抵当に入れ、友人や親にも頭を下げ、借金をして元本を作ってチャレンジしました。だからこそ今の豊かな暮らしがあるんです。
あんこさん、あなたは私にとって大切な人。あなたの暮らしを豊かにしたい一心で、この知識を授けてきました。
人生には何度か大きなチャンスがあります。それを自分から棒に振って、あとで貧しい暮らしを嘆く人が多い。
あなたは今、そのチャンスを自ら捨てようとしています。正直、価値観の違いを感じます。
私は日本旅行であなたに会えるのを楽しみにしていましたが、考え直します。さようなら。



Tonyは自分の苦労話と成功体験を繰り返していました。
これは、詐欺グループがよく使う“罪悪感操作”です。
・「あなたのためにやっている」
・「こんなに尽くしたのに」
という言葉で、被害者が「申し訳ない」と思い、自責の念を抱くよう仕向けます。
あんこさんは「自分が悪いのだろうか……」と悩みました。
「でも、こんなに必死に暗号資産を勧めてくるのも詐欺だからだろう。これでよかったんだ。」と自分に言い聞かせます。
とはいえ、Tonyが日本旅行に来たら案内すると約束していたこと、お勧めの観光地や食べ物を説明してあげていたこと、日本旅行を楽しんでほしいと願っていた経緯があり、自分のせいでTonyが楽しみにしていた日本旅行が台無しになってしまうのかと悲しい気持ちになったそうです。今まで毎日たくさん届いていたLINEも、突然途切れてしまい、寂しい気持ちが募りました。
TonyからのLINEが途絶えて2日後、また連絡が来ました。



私は間違っていました。あなたの暮らしを良くしたいという気持ちが強すぎて、あなたを傷つけてしまいました。
この2日間ずっと考えていて、胸が苦しくてたまりません。どうか許してください。
もう無理に暗号資産を勧めたりしません。以前のように、元の関係に戻ってくれませんか?



このタイミングで謝罪を入れるのは、典型的な“一旦突き放してからの優しさで引き戻す”心理操作です。
人は「失いかけた関係」が戻ると強い安心感を覚え、相手への依存心が高まることが知られています(吊り橋効果に近い状態)。
あんこさんも寂しさを感じていたこともあり、Tonyを許してしまいます。
そこから“再構築”が始まりました。
Tonyは徐々に「あんこさんがどれほど大切な存在か」を伝え、甘い言葉を重ねます。
あんこさんも「こんなに思ってくれる人は他にいないのかもしれない」と次第に心を許していきます。



その後、Tonyは一気に優しくなり、日常的な話題で信頼関係を築き直していきます。
この“安心・信頼の再構築”フェーズは詐欺の定番パターンです。
被害者の警戒心を完全に解くまで続きます。
その後1か月ほど、日本旅行の話や何気ない日常会話が続きました。詐欺とは関係のない話題で、信頼関係が作り直されていきます。
そしてまた、暗号資産の話が始まりました。



これはあんこさんの将来のためです。
豊かな暮らしを手に入れて、幸せになってほしい。これは最後のチャンスです。
やらないなら、私はあなたの前から去ります。
あんこさんは、その時まで何とか断ってきました。
ちょうどTonyが日本旅行に来る予定の数日前のことでした。
Tonyはあんこさんにこう語りかけました。



「結局、あなたは私のことを信じていないんですね。
ここまで愛し、あなたのために動いてきたのに、暮らしを良くしようと何度も伝えたのに。
あなたは私を信じることができなかった……本当に残念です。」
あんこさんは「自分が悪いのかもしれない……」と、心が揺れてしまいました。
そして最終的に、大金を送金してしまったのです。



再び「将来のため」「最後のチャンス」などの“恐怖と希望の二重操作”が始まります。
「やらなければ幸せはない」
「私は去る」
「やれば豊かな未来がある」
「私はあなたを愛している」
被害者は「断ったら失う」という心理に追い込まれ、最終的に自発的にお金を差し出す形になります。
このように、詐欺グループは以下のような段階を踏んで心理的に追い詰めていきます
- 少額成功→信頼構築
- 急激な拒絶→罪悪感と孤独感を煽る
- 謝罪→安心と信頼の再構築
- 愛情と未来の約束→希望と恐怖で追い詰める
このサイクルで心理的なコントロールが完成し、最終的な大金送金につながります。



すべて計算ずくだったんですよね。本当に悔やんでも悔やみきれないです。騙されている最中は時間をかけてマインドコントロールされていたんですね。
出金できない
Tonyに騙され、あんこさんは大金を送金してしまいました。
しかし、ここで終わらないのがいわゆる「豚の屠殺詐欺」の怖いところです。
あんこさんはTonyの指示通り、詐欺サイト(TruBit Proと名乗るサイト)で偽の取引を続け、画面上では資産がどんどん増えていくのを見せられます。
ある程度増えた頃、Tonyはこう言いました。



今の元本では少なすぎます。もっと元本を増やせませんか?



もう無理です。生活できなくなってしまいます。



この取引では利益は15%ほどしかありません。元本が増えれば、もっと高額取引・上級コインの取引も可能です。取引回数も増え、利益はさらに拡大します。



でも、もうお金が無いんです。



親や友人に頼ることはできませんか?助けてくれる人はいないのですか?よく考えてください。この機会を逃してほしくないんです!
日本ではこういう形でお金が借りられるようですよ(※消費者金融のURLも送付)。金利が高いと思うかもしれませんが、利益の方がはるかに上回ります。借りられるだけ借りましょう。私も協力しますから!
①消費者金融で借りさせようとした
これは詐欺の常套手段で、「借金してでも投資しろ」「元本が増えれば利益も大きくなる」
という“焦燥感”と“未来の豊かさ”を結びつける心理操作です。



正規の投資で消費者金融を勧めるのはありえません。まともな金融リテラシーではむしろ「借金投資はリスク」と教えます。
あんこさんは、残っていた資金をすべて送金してしまいました。



親や友達から借りました(うそ)。消費者金融には断られました。もう許してください。
あんこさんは、「あなたを助けてくれる人はいないのですか?」と聞かれて悲しくなりました。こんな話、誰にしたって信じてくれるわけがないし自分の大切な人に迷惑もかけたくない。
あんこさんは生活費のためにとっておいたお金をTonyに言われたように追加送金してしまいました。最後の方は「お金が無いからもう終わりにしたい」という意思表示のつもりだったそうです。
しかし「ここでTonyに見捨てられたら、資産を戻せなくなるのでは」という不安から、結局すべてのお金を渡してしまいました。



あんこさんはTonyに教えてもらえなければ取引できないので、ここでTonyを再び怒らせることは避けたかった。今まで送金したお金が引き出せなくなっても困ると思ったそうです。お金を人質にとられ完全に主導権を握られてしまっています。
あんこさんが、できる限りの金策を講じた旨をTonyにつたえ、「もう許して」と伝えたところ、



分かりました。あんこさんのUIDを教えてください。私の暗号資産で今動かせる2万ドル相当をあなたに送金します。



「あなたを助けてくれる人はいないのですか?」と問いかけることで、あんこさんを孤立させています。
家族や友人に相談するのはためらうだろうと読んでいたのでしょう。
あんこさんに金策をさせたあと、「私も助けてあげる」と恩を着せています。
その金額が2万ドル相当と絶妙で、多すぎず少なすぎず、「Tonyもこんなにしてくれた」「自分も頑張った」と思わせる額です。
2万ドル相当をあんこさんに送金した目的は上記の心理操作に加え、出金する際の「検証資金20%」の額を増やす目的もあります。
最初から計画された心理誘導で、詐欺師の常套手段ですね。
②「UIDで送金は本当にできるか?」
CEX(中央集権型取引所)では“UID送金”は現実に存在します。
例)Bybitの「内部送金」
→ 送金先のUID(ユーザーID)を入力するだけで、ブロックチェーン外で手数料無料で送金できます。
ただしこれは「同じ取引所内の送金」のみ可能。詐欺サイトがこれを演出に使ったようです。「DEX」ならUID送金という概念は存在しない=矛盾確定
あんこさんにメールが届き、Tonyから2万ドル相当のUSDTが送金されたことが確認されました。あんこさんの資金すべてを使って最後の取引をし、最終的な「利益」は200万円ほどになっていました。



あなたの今の元本では高額取引・上級コインの取引は出来ず、取引のチャンスも少ないです。生活費も足りないようですし、もう引き出していいですよ。引き出し方はわかりますね?



(やっと終わった…これでお金が戻る…)
そのあと、Tonyは「ロスアンゼルスに出張」のため、2日間LINEは出来ませんが、確認次第すぐ返事はするので心配しないで。と言い残し2日間連絡を絶ちます。
③出張などで連絡を絶つ
→ Tonyが「2日間LINEできない」と言ったのは、被害者が一人で悩み、不安にさせ、逃げ道を封じるための常套手段です。詐欺師が距離を取ることで被害者は余計に「今自分が行動しないとダメだ」と思い込まされます。その、連絡を絶つ名目に使われる「出張」は典型例と言えます。



「シンガポールからロサンゼルスに2泊3日出張」はかなり非現実的です。時差約15〜16時間・片道フライトが17〜18時・移動だけでほぼ2日かかる。現実的には「最低でも4泊6日〜1週間以上」が通常。かなり適当な出張先を選んだように思いますが、この時点であんこさんが違和感を覚えたとしてもどうしようもない状況です。Tonyの仕事はここまでです。
あんこさんはTonyの指示に従って引き出し手続きを行い、入金を待ちます。しかし、何時間経っても入金通知は来ません。そこで詐欺サイト(TruBit Proと名乗るサイト)にログインしてみると、アクセス拒否。
慌ててチャットで問い合わせると、次のようなメッセージが表示されました。
サポートチャット:「こんにちは、 出金申請はブロックチェーンノードによって拒否されました。これは初めての大規模な出金であるため、ブロックチェーンノードはお客様のアカウントがリスクにさらされていることを検出しました。お客様の資金の安全を確保するため、ブロックチェーンAIインテリジェントシステムはセキュリティ保護を発動し、お客様の取引アカウントと資産を一時的に凍結します。2025年〇月〇日〇時〇分までに(←10日以内)オンラインカスタマーサービスにご連絡いただき、IDと連絡先をご提供いただくとともに、アカウントのセキュリティ確認のため、アカウント総資産の20%を検証資金としてお支払いいただく必要があります。検証資金はUSDTの形でお客様の取引口座に返金されます。セキュリティ確認が完了すると、お客様の取引アカウントは凍結解除され、通常の状態に戻ります。指定の銀行口座への出金や通貨取引を自由に行うことができます。期限内にリスク検証資金が支払われない場合、毎日リスク検証資金の3%の延滞手数料が発生します。ご不明な点がございましたら、オンラインカスタマーサービスまでお問い合わせください。皆様の幸せな人生をお祈りいたします!」



Tonyは出張で連絡が出来ない。時間がない。自分で何とかしなくっちゃ。まず身分証をアップロードして。そのあとどうしたらいいの?検証資金ってどうやったら支払えるの?(パニック)。サポートに聞いてみよう。


① DEXのはずなのに「口座凍結」「ノード拒否」
→ DEX(分散型取引所)では「凍結」や「ノードによる拒否」という概念は存在しません。資産は自己管理のウォレットにあり、凍結されることもありません。完全に中央集権型取引所(CEX)の用語と混同されています。
② 検証資金という存在しない概念
→ 正規の取引では、「引き出しのために検証資金を支払う」という仕組みは存在しません。通常の取引所では、出金には本人確認(KYC)があるのみで、追加資金を払う必要はありません。
サポートチャットの不自然な要求
→ 公式の取引所は、サポートで「2日以内に振り込め」「1日3%の管理手数料」など急かす行為は行いません。このような表現自体が詐欺の特徴です。



このチャットの内容、詐欺の典型パターンが揃っています。まず「ノードに身分証明書を提出」「ノードの審査」「リスク検証資金」といった表現ですが、ブロックチェーンにはこのような“審査”や“検証資金”という概念は存在しません。さらに、出金のために「円でETHを購入し、専用のアドレスに送金しろ」という指示は、完全に詐欺のやり方です。本来、暗号資産の出金手続きに追加の送金は一切必要ありません。また、「支払わないと3%の延滞金」「指定日までに支払え」というのも、焦らせて冷静な判断を失わせるための心理操作です。このような指示には絶対に従わず、さらに送金してしまうと被害が拡大するだけです。
この画面は詐欺の証拠として保存し、警察などに提出する際に役立ちます。
あんこさんはこの時になって、「ああ、やっぱり詐欺なのね」と感じたそうです。



でも、でも、もし、検証資金を支払ったら本当に凍結解除してくれるんだったら?これ無視していいのかな?1日3%の手数料?33日で資産が消えちゃう。そのあとも請求が続いたら?どうしたらいいの?
あんこさんは、100%詐欺だと確信しましたが、Tonyから言い訳も聞いてみたい。そう思って数日後にLINEをし、事情を話し、説明を求めました。



検証資金を払えば大丈夫です。私も半分出しますから安心してください。



「助けるふり」で追加送金させる手口です。 Tonyが「私が半分出します」と言うのは、被害者の金銭的ハードルを下げ、「半分なら出せそう」と心理誘導するものです。
ここでTonyが言った「検証資金を払えば凍結解除されます」を信じ、追加で送金した場合、この詐欺はまだ続きます。次は違う名目になりお金を引き出せることは絶対にありません。
多額の資産を投入し、あきらめがつく状況ではない。人間は「ここまで来たのだからあと少し」と考えてしまい、損切りができなくなります(サンクコスト効果)。
あんこさんは、Tonyに「やっぱり詐欺なんだね」伝えました。
Tonyはあんこさんに心理操作が効かなくなっていると悟ったのでしょう。その会話の後あんこさんのLINEとInstagramをブロックしました。以降連絡はとれなくなりました。
まとめ
この記事では、暗号資産詐欺の仕組みと、被害者がどのように心理的に追い詰められていくのかを、あんこさんの事例を使って具体的に解説しました。
詐欺の典型的な流れは、次のようになります。
- 少額取引で利益を出す体験をさせ、信頼させる。
- 一度突き放して不安にさせた後、関係を修復して依存させる。
- 「あなたは特別」と持ち上げ、情を利用して深く信じ込ませる。
- 「暗号資産取引をしないなら関係を終わらせる」とプレッシャーをかける。
- 借金や金策までさせて送金させる。
- 「私も資金を出す」と恩を着せてさらなる送金を誘導する。
- 検証資金・手数料など理由をつけ限界まで搾取する。
- これ以上搾取できないと判断するとブロックして連絡を絶つ。
こうした一連の流れは、最初から最後まで被害者の金銭を吸い尽くすために作られたシナリオです。
途中で「助けてくれる」「資産を送ってくれる」といった優しさを感じる瞬間があっても、すべては次の送金を引き出すための演出です。
この記事では、取引の矛盾点、用語の間違い、偽装された仕組みを一つずつ説明しました。
特に暗号資産について知識のない方は、 「へぇ、そういうものなんだ」「海外の仕組みはこうなのか?」と疑問を持たず従ってしまう危険があります。
ですが、ほんの少しでも知識があれば、どこかで「これはおかしい」と気づけるはずです。
最後に。 この記事で紹介した内容を、ぜひ頭の片隅に置いてください。
「高額な利益を約束する」「特別扱いをしてくる」「借金をすすめる」「出金時に追加で払えと言ってくる」
このようなパターンに出会ったら、詐欺を疑ってください。
慌てず、一度立ち止まり、誰かに相談することが被害防止につながります。
あなたのお金と心を守るために、冷静な判断を大切にしてください。
コメント