世界中で被害拡大中「豚の屠殺詐欺(Pig Butchering Scam)」とは
「豚の屠殺詐欺(Pig Butchering Scam)」とは、SNSやマッチングアプリなどを使ってターゲットに近づき、親密な関係を装ったうえで「投資」などに誘い、大金を騙し取る詐欺の手口です。
この詐欺の名前は、「太らせてから一気に屠殺する」という意味の英語からきています。詐欺師たちは、時間をかけて信頼関係を築き、被害者が大金を投資するまでじっくり環境をつくります。
投資した後、その投資金額が増えているように錯覚させ、さらなる投資を引き出します。そして、最終的には根こそぎお金を奪い取って音信不通になります。
被害者は感情を操作され、恋愛感情や信頼を利用されるため、冷静な判断を失いやすく、被害金額も数百万円から数千万円にのぼることが多いのです。
片言の日本語でDMが届く
InstagramやX(旧Twitter)、FacebookなどのSNSに、突然知らないアカウントからDMが届く——。
多くの被害者は、そこから詐欺師との関係が始まっています。
メッセージの内容は、丁寧で誠実そう。SNSの運営ポリシーに違反しているような表現は一切ありません。
たとえば、こんな文章がよく見られます:
「私は日本が大好きです」
「今、日本語を勉強しています。近々、日本に旅行に行く予定です」
「おすすめの観光地を教えてください」
「日本語の練習をしたいので、よければチャットしてください」
一見すると、外国人観光客や日本文化に興味のある人が「軽く話しかけてきた」だけのように見えます。
だからこそ、「これ、もしかして詐欺かも…?」と感じたとしても——
「もし本当に日本が好きなだけだったら、失礼かもしれない」
「変な人じゃなさそうだし、ちょっと話すくらいなら…」
と、すぐにブロックするのをためらってしまうのです。
この「罪悪感を抱かせる文面」は、詐欺師たちが計算づくで使ってくる“入り口の罠”です。
LINEに誘導される
DMでしばらくやり取りを重ねたあと、相手はこう言ってきます。
「あなたとの交友はとても楽しく、学びがありました。
私はあまりこのSNSを利用しないので、LINEでお話しできませんか?
この素敵な会話を、ぜひ続けたいと思っています。」
とても丁寧で、感じの良い誘い方です。
普通に話してきた相手に対して、「あ、ごめん。LINEはちょっと……」とは、なかなか言いづらいものです。
だからこそ、多くの人が「私も楽しかったです」と応じてしまうのです。
SNSから別のツールに誘導される際、9割以上が「LINE」だと言われています。
この時点で疑ってください。
「失礼かも…」「感じ悪いと思われたくない」と思っても、勇気を出して断ることができたら、それだけで被害を防げたかもしれません。
このページを読んでくださっているあなたは、もしかすると——
「私もLINEに誘導された」
「でも、いい人だったし、詐欺だなんて思いたくない」
そんな気持ちかもしれません。
でも、この手口は典型的な詐欺の入り口です。
まだ「詐欺じゃないかも」と思っているなら、ぜひこの先も読み進めてください。
投資へ誘われる
LINEでのやり取りが始まると、相手から頻繁にメッセージが届くようになります。
たとえば、数時間スマートフォンを見ていなかった間に未読が7件。
確認してみると、そこには以下のような丁寧なメッセージが送られてきていることがあります。
「おはようございます。今日はいい天気ですね。
私は朝、ランニングをしてシャワーを浴び、朝食を食べてから仕事に出かけます。
今日は忙しい一日ですが、まずは日本の友人に挨拶をしたいと思いました。
どうか良い一日をお過ごしください。」
あわせて、自分の写真や朝食の写真、ランニング中の風景写真などが添付されていることもあります。
こうした細やかなやり取りに、思わず「誠実な人物なのかもしれない」と感じてしまう方も少なくありません。
返信をしないのは申し訳ないと感じたり、自分の写真を送ってあげようかと考えたりするうちに、やり取りは徐々に密になっていきます。
その過程で、趣味・仕事・家族構成などの情報が自然と伝わっていき、相手側は被害者の個人情報を着実に収集していきます。
ある程度の信頼関係ができた頃、会話の途中で相手がこう切り出します。
「少し取引があるので、しばらく席を外しますね」
その言葉をきっかけに、金融取引の話題が登場します。
被害者が「どんな取引ですか?」と尋ねれば、次のような展開が待っています。
「私は暗号資産の取引をしています。現在、かなりの利益が出ています。
あなたは資産をどのように運用していますか?
銀行に預けていてもお金は増えませんよ。今は“お金に働いてもらう”時代です。
もし興味があれば、やり方を教えます。」
このように、詐欺師は「積極的に誘っていない」「興味を示したのはあなた」という構図を作り出します。
被害者に自発的な判断を促すことで、後の責任逃れや心理的な操作にも利用されるのです。
出金できない
詐欺師の指示に従って、被害者は正規の暗号資産取引所(CEX)で暗号資産を購入し、
指定された投資サイト(実際には偽サイト)に送金します。
サイト上では、資産が増え(太らせる)ているように見え、操作もスムーズに感じられます。
しかし、いざ「出金」を試みると、突然このようなメールが届きます。
「あなたは初めて大口の資金を引き出そうとしたため、ノードの承認が下りませんでした。
そのため口座を凍結いたしました。
凍結を解除するには、現在の口座資金の20%にあたる『検証資金』をお支払いいただく必要があります。
なお、検証が完了すれば検証資金は返金されます。
期日までにお支払いが確認できない場合、1日あたり3%の手数料が発生いたしますのでご注意ください。」
この文面には、いくつもの“罠”が仕込まれています。
- もっともらしい理由で「口座凍結」
- 「検証資金は返金される」と損失の不安を緩和
- 「期日までに支払わないと損をする」という心理的圧力
1日3%の手数料という数字は、冷静に考えれば異常です。
仮に33日間支払わなければ、資金は理論上ゼロに。
しかも、その手数料が永続的に発生し続ける可能性まで示唆されています。
こうしたメールにより、被害者は「早く支払わなければ資産が消えてしまう」と焦り、
誰かに相談する余裕すら失っていきます。
この時点でLINEで詐欺師に連絡したとしても、返ってくるのは決まってこうです:
「その通りです。だからこそ、検証資金を払いましょう。そうすれば出金できます」
冷静な判断を封じたまま、次の段階——「最後のひと搾り」に進んでしまうのです。
最後のひと搾りで根こそぎ奪う
この「検証資金」を請求するためにこそ、詐欺師たちは最初から“資産が増えているように見せる”演出をしていたのです。
たとえば、100万円を投資させたとします。
偽サイト上では、それが400万円に増えて見える。
すると検証資金(20%)は、80万円にもなります。
「最初に振り込んだ額以上の“最後の一撃”」を狙う、これが詐欺師たちの本当の目的です。
もちろん、「検証資金を支払っても出金できない」ように作られています。
再び別の理由で拒否され、新たな費用を求められます。
詐欺師はこう言い続けます。
「今、手元にお金がない?なら、借金してでも払うべきですよ。
得られる利益のほうが大きいでしょう? 消費者金融で借りればいいのです。」
このように、「借金してまで支払った」被害者が生まれていきます。
最終的に、詐欺師が「もうこれ以上搾り取れない」と判断した瞬間。
LINEアカウントは削除され、SNSもブロックされ、すべての連絡手段が絶たれます。
こうして被害者は、資産も信頼も時間も奪われ、誰にも言えない深い後悔だけが残されるのです。
まとめ
ここまで紹介してきたように、国際ロマンス詐欺は、
最初からお金を奪うために綿密に設計された“心理的な罠”です。
丁寧な言葉、優しい態度、信頼関係を装ったやり取り、
そして資産を大きく見せる偽の取引画面。
そのすべてが、「最後のひと搾り」のために仕掛けられていたのです。
「なんで気づけなかったんだろう」
「自分が悪かったのかな……」
そんなふうに自分を責めてしまう方も少なくありません。
でも、あなたが信じてしまったのは、巧妙に設計された嘘です。
決して、あなたの人間性や判断力が劣っていたわけではありません。
このページが、「自分にも当てはまるかもしれない」と気づくきっかけになれば幸いです。
次にどうすればいいのか、少しでも前を向けそうなら、以下のページもご覧ください。